#09年・国慶節の予定 |
この3ヶ月間、一体何をしていたのか。
―事件が起きたのは6月末。
ウェブ上に軽々しく書き込むことが許せないほど、本当に辛い出来事だった。
とにかく、その事件以降、僕は「引きこもり」を決め込んだ。
土日も自宅の半径100mから一歩も出ることなく、ビールを飲みながら
DSの「桃鉄」や、スーファミの「ドラクエ6」なんかに興じていた。
「トラベラー」から「ゲーマー」へ。
「リアル」から「バーチャル」へ。
「三次元」から「二次元」へ。
冗談抜きで、これが7月度のテーマだった。
―8月。
事件の詳細はごく一部の人間にしか明かしていないが、
見かねた友人が北京から土日を使って僕を慰めに来てくれた。
その翌週。盆休みに当たるこの週は、日本へ一時帰国していた。
地元の料理を満喫したり、家族で旅行に行った福井県で海の幸を堪能したりと
充実した1週間を過ごした。
事件前の僕だったら、これまでの調子でメシの写真ばかり載せた日記を
大喜びして連日書き連ねていたに違いないが、今の僕にそんなヒマはない。
なぜなら…
「ドラクエ9」。
事件以降、日本でドラクエ9を買ってプレイすることだけを目標に過ごしてきた。
現在進行形で「クエスト」と「宝の地図」に没頭しているが、
一時帰国以降プライベートな時間の大半をドラクエ9につぎ込んできた。
おかげで日中の仕事にも全然身が入らない。気がつくと
「洞窟の場所(宝の地図)」や「スキルの振り分け」について延々と思考を巡らしている。
主人公の僕(パラディン)は現在スキルポイントを159貯め込んでいる。
そんな集中力を欠いた状態で国慶節前という繁忙期に突入したものだから、
仕事における「クリア前のクエスト」は溜まる一方である。
ドラクエ9の世界ではクリア前のクエストが一定数溜まっていると
「あなた忙しそうだから、また今度ね。」と依頼主も諦めてくれるが、
現実世界ではそうは行かない。
―そして、今。
今年の国慶節休暇は、中秋節とのコンボで9連休まで伸びた。
勤務先のカレンダーを見て、思わずテンションブースト。
リアルな「ぼうけんのたび」への衝動が一気に湧き上がってきた。
というわけで、今回は…
内モンゴル&銀川。
28日朝一のFMでフフホトへ飛び、その日の夜行列車で
モンゴルとの国境の町・エレンホトに入る。憧れの「国境越え」は
過去に行った丹東(北朝鮮)や黒河(ロシア)よりも比較的容易に見えるが、
30日の昼にエレンホトを出なければならない。時間がないし、
いろいろと物騒な世の中でもあるので、無理せず慎重に行動したい。
30日の夜にフフホトへ戻り、友人と合流。
これまでの旅と一番違うのはここだ。途中から一人ではなくなる。
大学の同期で現在北京で働いている凄い奴なのだが、彼が
8月頭に「北京から土日を使って慰めに来てくれた」友人である。
「内モンゴル合流計画」は5月くらいに立ち上がり、その後僕の事件で
一旦白紙になりかけたが、最終的に実現することになった。
10月1日〜3日で、大草原ツアー。
満天の星空の下、茹でた羊肉の脂でベタベタになった手で馬乳酒を酌み交わす。
この旅というか、人生最大のハイライトシーンの一つになる予感が今からしている。
4日にフフホト市内のチベット寺院などを観光した後、夜行列車で
寧夏回族自治区・銀川へ。内モンゴルとともに初制覇である。
干からびた城跡に、西夏王国の栄華・歴史のロマンを感じよう。
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「ぼうけんのたび」まであと4日(土日出勤あり)。
初日からスーパーハイテンションで臨みたい。
#インナーモンゴリア(09国慶節1) |
9月28日(月)、フフホト市。内モンゴル自治区初上陸。
今年の国慶節、9連休をフルに使った「ぼうけんのたび」が始まった。
初日の今日は完全に「準備デー」。
まずはフフホト駅で電車のチケットを購入した後、間髪入れずに現地の旅行代理店へ。
今回最大の目玉「大草原ツアー」を満喫するには、情報収集が欠かせない。
2軒回ったところで大体のイメージが掴めてきたが、この2軒で
扱っているのはいずれも1泊2日の草原ツアーor砂漠ツアーだった。
草原は外せないけど、せっかくだから砂漠も見てみたいし、
あとチンギスハン陵にも絶対行きたい。2泊3日で全部回れるような
ツアーがあったらいいんだが、どうやって折り合いをつけようか…。
―気がつけば午後2時。
腹減った…昼飯食べてから考えよう。
ここは内モンゴル、やはり「モンゴル料理」を味わいたい。
フフホトは結構な大都会。だだっ広い道路の脇にビルが立ち並び…
過去に訪れた省都レベルの地方都市と似たようなイメージで、
今のところ歩いてきた限りでは「らしさ」はあまり感じられない。
大通りを外れ脇道に入ると、ちょっとした食堂街が見つかった。
看板に書かれた料理名を1軒1軒丹念に見て回る。
…あった! 「蒙餐」=モンゴル料理。
チンギスハンに大草原…「いかにも」なディスプレイ。
ようやく「内モンゴルへ来た」という実感が沸き上がってきた。
昼だから麺でも食って軽く済ませよう。
まずは内モンゴル名物・奶茶(バター茶)。
これが楽しみで仕方がなかった。
「…!!」
奶茶、うめぇ! 最初の一口で完全に魅了されてしまった。
乳脂肪の濃厚なコクと香りに、ちょっとした塩味が絶妙のアクセント。
これはハマる。
羊肉麺。
きしめんの様な極太麺に白濁スープ。丼から漂うヒツジ独特の香り。
極太麺を箸で持ち上げ、緊張の一口目。
「…!!」
ヤンコツ(羊骨)スープ。
ワイルドな香りを湛えた極上の旨味が口中に広がり…しばし陶酔。
コシのある極太麺の食感もいい。
スープは完飲、その後奶茶をガブ飲み。
モンゴル料理の味わい深さに驚きと感動を覚え、店を後にする。
―30日の宿泊先・如家ホテルの対面にある旅行代理店。
>草原は外せないけど、せっかくだから砂漠も見てみたいし、
>あとチンギスハン陵にも絶対行きたい。2泊3日で全部回れるような
>ツアーがあったらいいんだが、どうやって折り合いをつけようか…。
こんなわがままな希望を一気に叶えてくれるツアーがここにあった。
初日:草原→2日目:砂漠→3日目:チンギスハン陵…まさに希望そのまま。
値段も手頃だし、ほぼこれで決まりだ。
モンゴル文字併記の道路標識。
昼飯以降、旅行気分が一気に盛り上がってきた。
晩飯はフフホト駅の近くにあるモンゴル料理屋で。
夜10時発の夜行列車に乗り、モンゴルとの国境・エレンホトへ移動する。
内モンゴルのビールは冷えてないようなので、今日は青島にしよう。
ラベルのロゴマーク、よく見てみると「TSINGTAO」ではなく「WUYUEFENG」。
五月っぽいが、正確な漢字の綴りは結局わからずじまい。
一応製造元は青島で、味も安めの青島。
奶豆腐。
中国のチーズを一度食べてみたかったので、それっぽい名前の料理を注文。
「…。」
なにこれ?全然味がしない。
本当にただの豆腐なんじゃないか?と思うくらい、
チーズらしいコクや酸味といったものが感じられない。
これが内モンゴルのチーズってやつなのか…。
完全に期待外れ、決して旨いといえる代物ではない。
ただ、だからといって頭ごなしに全否定するのも気が引ける。
この奶豆腐のため、そしてこれを頼んだ自分自身を
正当化するために、魅力的なキャッチコピーを考えてあげよう。
「大草原が生んだ」「素朴な味」。
…ちょっといい感じに思えてきた?
牛の干肉。フフホトの土産屋にほぼ100%置いてある名産品だが、
ビーフジャーキーと違い、焼かないと硬くて食べられないようだ。
レバーのような濃い味。クミンも利いててビールが進む。
時間が経つとカチカチになって本当に食べられない。
羊肉餅。この手の肉餅は中国の割とどこでも見かける。
羊肉ハンバーグ的な味わいで、これもビールが進む。
正直な話、昼間の麺と比べると、ここの料理はイマイチ感動が薄い。
ここは一発逆転を狙わなければ…。メニューを見せてくれ。
酸奶炒米。
ヨーグルトチャーハン?
ヨーグルト麺はネットで見たことがあるが、チャーハンもあるとは…。
一緒に炒めるのか、或いは上からぶっかけるのか…全く想像がつかない。
よし、これで行こう。
「…!?」
酸奶炒米。普通のデザートだった。
そういえば「炒米」っていうツブツブのお菓子みたいなの、どこかで見たことがある。
「ヨーグルトチャーハン」というとんでもない料理を想像していたのだが、
そういうことか。「安堵」と「がっかり」が同時に押し寄せる、複雑な心境。
味は旨いが、炒米の割合が多く、デザートとしてはちょっと重い。
まぁ、今日は初日だし、こんなもんだろう。
―午後10時前、フフホト駅。
待合室は国慶節の帰省客でごった返している。
エレンホトまでの所要時間はおよそ8時間。そして僕のチケットは「無座」。
前回(ハルピン→黒河)のような地獄のロングスタンディングを強いられるのか、
或いは硬座と同等以上の「デラックスシート」(=地面)が手に入るのか…?
改札が始まった。