5月1日、洛陽空港。
市内へ向かうタクシーで、一人の若い女性と相乗りになった。
「観光へ行くんだったら、1日200元で回ってやるよ。」
出発して間もなく"商談"を持ちかけてくる運転手。
洛陽について、主な観光地2.3箇所の名前以外全く何も知らない僕は
200元が高いのか安いのか、適正価格が幾らなのか検討もつかない。
「200元って、どう思います?高いですかねぇ…。」
後部座席の女性に訊いてみる。
すると彼女、いきなり運転手に向かってこんなことを言い出した。
「
彼は私と一緒に駅で下りるわ!私たち、友達と一緒に観光に行くの。」
…え?
そもそも彼女とは面識すらない。
いったいどうなっているのか…彼女と運転手との会話に耳を傾ける。
…僕が運転手のカモになりかけたところに親切な彼女が割って入ってくれ、
カモに逃げられた運転手が「邪魔しやがって」と腹を立てている…
ディテールは全然聞き取れなかったが、どうもそういう状況らしい。
とりあえず、彼女と一緒に洛陽駅でタクシーを下りる。
まず僕に学生証を見せ、自己紹介を始める彼女。
その後も、彼女が車内で話してた「友達」と連絡を取る様子はない。
ちょっと待て。
これって、ひょっとして、これから二人で旅するってこと?
ていうか、ロマンス…??
…よくよく話を聞いてみると、車の中で言ってた「友達と観光」という話は
完全に僕を助けるための芝居だった。本当は彼女はこれから故郷へ帰るという。
(軽くハートブレイク。)更にその後、彼女は学校の先生に電話をかけ、
主な観光地への路線バスでの行き方まで詳しく聞いて僕に教えてくれた。
駅から最初の目的地「龍門石窟」まで、バスなら1.5元。
多少乗り間違えても、20元あれば余裕で全部回れる。
彼女が同乗していなければ、運転手に200元渡していたに違いない。
見ず知らずの間抜けな日本人を助けるために
運転手との口喧嘩も厭わない、彼女の親切で勇敢な振る舞い。
「ありがとう」の言葉のほかに、彼女に何もお返しできないのが本当に心苦しい。
バスに乗り込み、窓越しに手を振って彼女と別れる。
この旅で一番胸が熱くなった瞬間。
バスがゆっくりと動き出す。